福岡市長  吉田 宏 様                          2010 年8月9日

博多湾・ 和白干潟保全のための提案

                            和白干潟を守る会 代表 山本廣子                             

 2010年は、国連の定めた国際生物多様性年として各国で様々な生態系保全の取り組みが進め られ、わが国

でも10月に藤前干潟のある名古屋市で生物多様性条約締約国会議が予定されています。

 福岡市の博多湾「和白干潟」は渡り鳥や干潟 の生き物たち、特有の植物など豊かな生態系をもつ貴重な自然が

残され、2009年に干潟として唯一「にほん の里100選」にも選ばれています。和白干潟は福岡市のみなら

ず、世界に誇りうる財産として次の世代に引き 継いでいかなければなりません。

 私たち和白干潟を守る会は、和白干潟の全面 埋め立て計画が出された時に、埋め立てずに保全して和白干潟の

豊かな自然を未来の子供たちに伝えることを目 的に、1988年発足しました。

 この間、私たちは自然保護活動として干潟の 清掃活動だけではなく、次代を担う子どもたちへ自然を大切にす

る心を養う環境教育プログラムや、自然観察 会、水鳥や水質、砂質、ゴミなどの調査を実施してきました。22

年に及ぶ守る会の活動には広く国内外の個人、 団体、企業などから賛同や協力をいただき今日に至っています。

 しかし博多湾の開発により、干潟の消滅や都 市化による生活排水の流入によって博多湾や和白干潟の環境は悪

化しています。特に1994年の人工島工事着 工以降は環境悪化がひどくなっています。水質悪化が原因と思わ

れるアオサの大量発生、干潟のヘドロ化、渡り 鳥の減少などが起こっています。

 和白干潟を守る会は、博多湾・和白干潟の環 境悪化を防ぎ、環境改善を求め、保全の視点から、福岡市に対し、

2003年、2007年の2度にわたり「博多 湾・和白干潟保全のための提案」をしてきました。しかしながら

私たちの要望の実現には至っていません。

そこで国際生物多様性年にあたり、改めて博多 湾・和白干潟の保全について以下の提案をいたします。

 

1.博多湾・和白干潟のラムサール条約登録を実現 すること

博多湾の中でも「和白干潟」は特に環境省の 「国指定鳥獣保護区」になり、ラムサール条約の登録候補地に

なっている。博多湾の中で特にラムサール条約 登録の可能性が高い「和白干潟」から先行して登録を実現す

るよう環境省に働きかけること。

2.和白干潟保全のために以下の施策を 推進すること

(1)博多湾の水質悪化を防ぐため流入負荷を 削減すること

(2)自然の復元と人工島計画の見直しを行う こと

@和白海域は人工島の存在により「静穏化」 し、それが原因で海域・干潟の底質悪化が起こっているため、

 海水の交換がよくなるよう潮流や波浪の復活 を検討すること

  A人工島事業で埋め立て中、未着工部分の 工事を凍結・中止し、遊休地を海に戻すこと

  B和白干潟沖の人工干潟計画を撤回するこ と   

(3)生態系に配慮した干潟や沿岸域を保全す ること

  @エコパークゾーン整備による和白海域の さらなる護岸工事を中止すること

  A博多湾に残る自然海岸を保全すること

   ・都市計画道路「海の中道海浜公園線」 の計画を廃止すること

   ・沿岸域の開発規制のため保護区設定や 市による買取をすすめること(海の広場から唐原沿岸一帯のアシ

    原やクロマツ林など、雁の巣の沿岸 林、牧ノ鼻の緑地など)

   ・塩浜護岸の北側畑地を福岡市が買い取 り、和白干潟の後背地として残すこと

(4)香椎海岸の人道橋工事の中止と自然海岸 (岩場)を復元すること

(5)重機による干潟耕運を中止すること

(6)アオサの早期摘み取りを促進すること

・アオサ早期摘み取りがアサリなど生物の生育 に効果があることから、福岡市が事業として取り組むこと

3.和白4丁目海の広場横の不法占拠されていた廃 棄物撤去後の跡地について

   ・和白干潟の環境教育のため必要最少限のトイレ、手洗い場、倉庫を整備すること

4.市民参加を推進すること

       博多湾・和白干潟の保全策の決定や実施につい ては、行政や専門家だけではなく、計画段階から市民参加で

       検討・審議を行う  

5.以上の提案を実施するとともに、以 下の項目を含む「博多湾・和白干潟保全のための条例」を制定すること

 ・アサリ、カニ、ゴカイなどの業者による捕 獲の禁止・博多湾の水質改善の対策

 ・アオサ対策・沿岸域の開発や工事などの規 制・自然環境が破壊された現状の回復

 ・沿岸部、海域部において事業・工事を計画 するときには初期段階から市民、活動団体などを含めた委員会を

設置し、立案、環境影響評価、事業遂行の各段 階において市民参画のもとに進める

 

以上の提案について、2010年9月 10日までに文書でご回答くださいますようお願い申し上げます。

◎ 回答 送付先:和白干潟を守る会 代表 山本廣子 〒811-0202 福岡市東区和白1-14-37

 

 


 

(補足資料)            和白干潟 について

     和白干潟(和白海域約300ha)は博多湾東奥部にあり、渡り鳥にとってロ シア・中国か ら朝鮮半島
   を経てニュージーランドへ至る経路と,日本列島を南北に縦断して東南アジアへ至る経路の二つの渡り
   のルートが交差する地点に位置し、渡り鳥の数と種類が多いことで知られている。1980年以降23
   7種の野鳥が観察されており、国際的にも貴重なクロツラヘラサギやズグロカモメ、ツクシガモなども
   定期的に飛来している。また、日本の主だった干潟は太平洋側に位置するのに対して、和白干潟は日本
   海側に位置していることも特徴である。

       博多湾は、その中央部から開発が進み、港湾・流通施設・工場・住宅・レジャー施設などを建設する

   ため、ほとんどの海岸部が埋め立てられており、自然の海岸線は20%以下となっている。その中で,

   和白干潟には自然の海岸線が残り、しかも干潟・アシ原・クロマツ林が連なるという干潟の原風景を小

   規模ながらも残している点で極めて貴重な場所である。2009年には、干潟として唯一「にほんの里

   100選」に選ばれている。

       干潟はほとんどが砂質干潟であり、河口部の一部が砂泥質及び泥質である。したがって、干潟表面は

   比較的硬く、ふつうの靴でも低潮帯まで歩いていくことができる。そのため特別な装備は必要なく、底

   生動物の観察はきわめて容易である。周辺は宅地が広がり、近くにあった農地も失われつつある。また、

   1994年7月から干潟沖の浅海域を大規模に埋め立てる人工島建設工事(401ha)が進行中のため、

   豊かな生態系の維持には不利な状況が続いている。

       和白 干潟は2003年11月に県指定から国指定和白干潟鳥獣保護区となった。このための基礎調査

   を環境省の委託によりWWFJが行ない、和白干潟を守る会も協力した。保護区の範囲が狭いことや特

   別保護区が無いことなどまだまだ課題はあるが、これからラムサール条約登録湿地に指定されるまでの

   第一歩だと思っている。2004年に和白干潟はラムサール条約登録の候補地に上がったが、地元の同

   意が得られていないという理由で国指定鳥獣保護区の特別保護区にはなっていない。

  

   ●多 様な生物の生活の場

      干潟 や浅海域には貝・カニ・ゴカイなど、多様な生物が棲んでいる。豊富な生物が棲み、安全で広い

      場所 は渡り鳥のすみかでもある。

   ●食 べ物になる生物の産卵・生育の場

      海の 生物の命のゆりかごといわれる干潟は、底生動物や魚などが産まれて育つ場所でもある。博多湾

      の漁 業にはなくてはならない所である。

   ●博 多湾の海水浄化の場

      ここ では、微生物・底生動物・魚・鳥・人などの食物連鎖により、博多湾の海水が浄化されている。

   ●環 境教育及び市民の憩いの場

      自然 が少なくなった現在、豊かな自然が残されている和白干潟は、子ども達の自然体験や環境教育の

      場と しても重要である。 都市化の進んだ福岡市の中心部から30分のところにある和白干潟は、

      人々 に心休まる憩いの場を提供している。潮干狩りやバードウォッチングを楽しむこともできる。