2007年2月7日

福岡市長 吉田 宏 様          

和白干潟を守る会  代表  山本 廣子

811-0202 福岡市東区和白1-14-37

TELFAX 092-606-0012

博多湾・和白干潟保全のための提案

博多湾・和白干潟には福岡市民にとっても世界的に見ても貴重な自然が残されています。

 和白干潟を守る会は、和白干潟の全面埋め立て計画の時に、埋め立てずに保全して和白干潟の豊かな自然を未来の子どもたちに伝えることを目的として、1988年に発足しました。自然保護活動や環境教育などの活動を続けて19年になります。和白干潟での自然観察会やクリーン作戦、水鳥や水質の調査などを続けてきました。

 しかし、博多湾の開発による干潟の消滅や都市化による生活排水の流入によって、博多湾や和白干潟の環境は悪化しています。特に1994年の人工島工事着工以降は、環境悪化がひどくなっています。水質の悪化が原因と思われるアオサの大量発生や干潟のヘドロ化、渡り鳥の減少などが起こっています。

 博多湾・和白干潟の環境悪化を防ぎ環境が改善するように、保全の視点から、和白干潟を守る会では2003年に「博多湾・和白干潟保全のための提案」をいたしました。その後も私たちはたびたび福岡市に、博多湾・和白干潟の保全に関わる要望書を提出してきましたが、要望の実現にはいたっていません。今回、市民の期待をになって市長に就任された吉田宏市長に、あらためて以下の提案をいたします。

 

1、市長、吉田宏氏に和白干潟を訪問していただくこと

    和白干潟の現状、生物の多様性などについて、ぜひ現場で実感していただきたいと思います。当会では喜んでご案内したいと思います。

2.博多湾・和白干潟のラムサール条約登録を実現すること

和白干潟海域は、ラムサール条約(※)登録湿地の候補にあげられ、条約登録に向け2003年に国指定和白干潟鳥獣保護区に指定されました。和白干潟は渡り鳥のコースの交差点であり、貴重な水鳥が飛来しており、アシ原や砂洲には絶滅や減少が心配される動植物が生息しています。ラムサール条約の求める規準を十分に充たしていますから、条約登録がなされて当然と思われます。しかし、いまだに実現していません。国指定鳥獣保護区への指定は成果ですが、さらに福岡市の取り組みによって、条約への登録を実現するよう要望します。※ラムサール条約とは「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」ですが、一般には「ラムサール条約」と呼ばれています。地球規模で自然環境の保全を目指した世界で最初の条約です。

3.「博多湾・和白干潟保全のための条例」を制定すること

   (1)福岡市には「環境基本条例」がありますが、より実効性のある、具体的に干潟の多様性保全を目的とした条例が必要です。当会では今年、「和白干潟の保全を目的とした市民条例案」作成に向けて取り組むことにしています。

(2)アサリ、カニやゴカイなどの業者による捕獲の禁止、博多湾の水質悪化を改善するための対策、水質悪化により増え続けるアオサのリサイクル施設の建設、沿岸域の開発や工事などへの規制、市が沿岸部、海域部において事業・工事を計画するときには初期段階から市民、活動団体などを含めた委員会を設置し、立案、事業遂行の各段階において市民参画のもとに進めるなどを含む条例制定を要望します。

4、博多湾への流入負荷を削減すること

  博多湾の水質が基準値を超えないように、以下を実行することを要望します。

  ・福岡市は家庭排水による博多湾の負荷を減らすよう、市民に強く働きかけること。

  ・博多湾周辺の人口増加を抑制することにより、下水や下水処理水の博多湾流入を減らすこと。

・福岡市の下水処理をさらに高度化(リンだけでは無く、窒素も除去する)すること。

・水処理水の放流場所を検討すること(川の途中や外海など)。

・下水処理水はアシ原や池などを通し、自然浄化して流すこと。

・また周辺自治体に下水処理の徹底を強く働きかけること。

※2001年518日「アイランドシティ整備事業環境影響評価レビュー」に対する環境省見解1 環境影響評価書における水質予測の前提となっていた博多湾流域内の下水道整備及び高度処理の導入については、流域下水道において当初の計画よりも遅れていることから、可能な限り早期に実現するように努めること。

5、自然の復元と人工島計画の見直し

 (1)潮流や波浪の復活

  2001年518日の「アイランドシティ整備事業環境影響レビュー」に対する環境省見解よると、和白海域は人工島の存在により「静穏化」しており、それが原因で海域・干潟の底質悪化が起こっているそうです。和白海域の潮流や波浪を復活し海水の交換が良くなるように、雁ノ巣から海の中道に面する人工島北側護岸を後退させることなどを検討してください。

※2001年518日「アイランドシティ整備事業環境影響評価レビュー」に対する環境省見解2和白海域等において、アイランドシティ整備事業の進捗による海域の静穏化が主な原因とみられる底質のCOD、硫化物等の増加傾向がみられることから、今後とも生態系への影響も留意しつつ、同海域の水質も含めた必要な環境監視を継続し、適切な環境保全措置を講じること。また、その際、必要に応じて専門家等の指導を得ること。

(2)遊休埋立地を海に戻す

  博多湾には埋め立てたが遊休地となっている場所が残っています。そうした遊休埋立地を海や干潟に復元すること。また、人工島工事は中断して、不必要な部分を点検し、もとの浅海域を復元することなどを検討してください。

6、生態系に配慮した干潟や沿岸域の保全

  (1)エコパークゾーン整備による和白海域のさらなる護岸工事を中止すること。

塩浜地区護岸工事は、計画が市民に明らかにされないまま着工され、途中で中止を申し入れましたが、福岡市は市民の意見を取り入れませんでした。エコパークゾーンに関わる和白海域の護岸工事により、4074平方メートル(6m×679m)の干潟が新たに失われました。干潟に棲む生き物たちの生息場所を大きく失ってしまいました。これ以上干潟面積を減らすような護岸工事は中止してください。

(2)博多湾に残る自然海岸の保全

海と陸が接する海岸線は特殊な動植物が生息しており、重要な場所です。博多湾に残る自然海岸は保全すること。海岸線や干潟・浅海域の生態系に配慮するために、都市計画道路「海の中道海浜公園線」の和白海域にかかる部分を中止や変更することなどを検討してください。

  (3)重機による干潟耕運を中止すること

現在,有明海と同じように和白干潟でも「干潟再生」として福岡市港湾局有志による干潟の耕耘実験が行なわれています。干潟耕耘は悪化の対症療法にすぎず,根本的解決にはなりません。福岡市は干潟耕耘が再生の決め手のように宣伝し,干潟悪化の原因である「人工島」から市民の目をそらそうとしているように思われます。2006年には和白干潟で重機による干潟耕耘を大規模に行いました。一挙に大規模に干潟を改変することは干潟の生き物たちの生活環境を破壊する暴挙であり、それに税金を使うのは税金のムダ使いであると思います。

有明海と同じように,和白干潟の海水の循環と交換を回復することが和白干潟再生の目標です。

(4)人工島野鳥公園外側の和白海域に造成予定の人工干潟計画を撤回すること

2006526日に、福岡市野鳥公園検討委員会から福岡市長に提出された「野鳥公園基本構想」の中に人工干潟の造成が含まれていますが、この計画の中止を求めます。

人工干潟造成が予定されている場所は和白干潟のすぐ沖です。人工島の埋め立てで閉鎖性が高まり停滞水域となっている和白海域の環境を、人工干潟造成で新たな埋立てを行えば、潮流変化とさらなる潮流停滞を招き水交換能力が損なわれ、和白干潟の環境悪化がさらに拡大することが懸念されます。また閉鎖性の強い海域で大規模な埋立てを行えば、その潮汐にも変化が及ぶ懸念があります。潮位の変化は少なからず和白干潟の生物相の変化や生態系に影響を及ぼすことになります。和白海域の保全のために人工島野鳥公園外側に造成予定の人工干潟計画を撤回してください。

  (5)畑地の公園化

  塩浜護岸の北側にある畑地を和白干潟の後背地として一体的に保全整備するため、福岡市や国・県により買取り、公園化をすることを要望します。干潟や浅海域に生息する水鳥たちにとっては、満潮時の安全な生息場所が必要です。また塩浜畑地のすぐそばにある「和白下水処理場」の処理水をアシの生える湿地を通して浄化して海に流せば、きれいな排水を放流できます。塩浜畑地は、湿地や樹木のある市民にも親しまれる公園としても、整備が可能です。そのような多目的の公園として、福岡市が整備することを提案します。

7、アオサの除去とリサイクルの促進

  博多湾の富栄養化が原因といわれるアオサの大量発生が、1994年の人工島工事着工以来、恒常的になりました。浅海域で大量発生したアオサは風や波で沿岸域に運ばれ、干潟で50cm以上もの厚さに堆積し、一挙に腐りヘドロ化します。このアオサ対策は全国、及び世界の内湾を持つ都市の共通の悩みでもあり、多くの自治体で研究や対策に取り組んでいます。福岡市でも1995年から、浅海域と沿岸域の両方でアオサの回収を始めましたが、取りつくせないアオサが残り、ヘドロになり海を汚染しています。積もったアオサの下で、生物が生息できず死滅しています。また回収されたアオサは人工島の埋立地に廃棄するか、ゴミ焼却場で処分されています。しかし、アオサは昔から、肥料や飼料として使われており、そのほかにも食料や化粧品などにリサイクルが可能な海藻です。和白海域では夏期から冬期にかけて、アオサの大量発生が起こります。その大量のアオサをただゴミとして捨てるのではなく、有効に利用するための、アオサ乾燥施設を含むリサイクル施設の建設に福岡市が取り組むよう、提案します。さらに、アオサが異常発生しないように対策を進めてください。

8、市民参加の推進

  博多湾・和白干潟の保全策の決定や実施については、行政や専門家だけではなく、計画段階から市民参加で行うことを要望します。

 

  以上の提案について、2007年4月25日までに文書でご回答くださいますようお願い申し上げます。

 

(補足資料)            和白干潟について

 和白干潟(和白海域約300ha)は博多湾東奥部にあり、渡り鳥にとってロシア・中国から朝鮮半島を経てニュージーランドへ至る経路と,日本列島を南北に縦断して東南アジアへ至る経路の二つの渡りのルートが交差する地点に位置し、渡り鳥の数と種類が多いことで知られている。1980年以降237種の野鳥が観察されており、国際的にも貴重なクロツラヘラサギやズグロカモメ、ツクシガモなども定期的に飛来している。また、日本の主だった干潟は太平洋側に位置するのに対して、和白干潟は日本海側に位置していることも特徴である。

 博多湾は、その中央部から開発が進み、港湾・流通施設・工場・住宅・レジャー施設などを建設するため、ほとんどの海岸部が埋め立てられており、自然の海岸線は20%以下となっている。その中で,和白干潟には自然の海岸線が残り、しかも干潟・アシ原・クロマツ林が連なるという干潟の原風景を小規模ながらも残している点で極めて貴重な場所である。福岡都心部に近く、鉄道の駅からすぐに干潟に出られるので、市民のアクセスのしやすさも抜群である。

 干潟はほとんどが砂質干潟であり、河口部の一部が砂泥質及び泥質である。したがって、干潟表面は比較的硬く、ふつうの靴でも低潮帯まで歩いていくことができる。そのため特別な装備は必要なく、底生動物の観察はきわめて容易である。周辺は宅地が広がり、近くにあった農地も失われつつある。また、1994年7月から干潟沖の浅海域を大規模に埋め立てる人工島建設工事(401ha)が進行中のため、豊かな生態系の維持には不利な状況が続いている。

和白干潟は2003年11月に県指定から国指定和白干潟鳥獣保護区となった。このための基礎調査を環境省の委託によりWWFJが行ない、和白干潟を守る会も協力した。保護区の範囲が狭いことや特別保護区が無いことなどまだまだ課題はあるが、これからラムサール条約登録湿地に指定されるまでの第一歩だと思っている。2004年に和白干潟はラムサール条約登録の候補地に上がったが、地元の同意が得られていないという理由で国指定鳥獣保護区の特別保護区にはなっていない。

 

●多様な生物の生活の場

 干潟や浅海域には貝・カニ・ゴカイなど、多様な生物が棲んでいる。豊富な生物が棲み、安全で広い場所は渡り鳥のすみかでもある。

●食べ物になる生物の産卵・生育の場

 海の生物の命のゆりかごといわれる干潟は、底生動物や魚などが産まれて育つ場所でもある。博多湾の漁業にはなくてはならない所である。

●博多湾の海水浄化の場

 ここでは、微生物・底生動物・魚・鳥・人などの食物連鎖により、博多湾の海水が浄化されている。

●環境教育及び市民の憩いの場

 自然が少なくなった現在、豊かな自然が残されている和白干潟は、子ども達の自然体験や環境教育の場としても重要である。 都市化の進んだ福岡市の中心部から30分のところにある和白干潟は、人々に心休まる憩いの場を提供している。潮干狩りやバードウォッチングを楽しむこともできる。