博多湾市民の会の福岡市への要望 と 市からの回答

福岡市長 山崎 広太郎 様
環境影響評価レビューをふまえ,あらためて和白干潟をはじめ東部海域の自然環境の保全と人工島内における湿地再生を求めます

 
2001年5月31日
博多湾の豊かな自然を未来に伝える市民の会
(略称:博多湾市民の会)
代 表  安 東  毅


  1994年7月に人工島埋立工事が着工され,まもなく8年が経過しようとしています。
 そうしたなかで,4月27日に環境影響評価レビューの結果が公表され,5月18日には環境省からこれに対する見解書が公表されました。
 今回のレビュー結果で重要なことは,着工前に比べ干潟を生息場とするシギ・チドリ類の飛来数が半減していることなど,和白干潟をはじめ人工島周辺の自然環境の変化は否定し得ない事実となったということです。
 福岡市はこうした変化を人工島以外の原因と結論づけていますが,別紙のとおり,わたしたちは,その結論に疑問があります。また,具体的な原因が何も示されていないままでは結論の信頼性もありません。仮に,その点に関する疑問はさておくとしても,和白干潟をはじめとした博多湾東部海域の自然が国際的に重要なものであることをふまえれば,従来,この自然が有していた豊かさを取り戻し,できるだけ良好な状態で未来の世代に伝えるための方策を,国,自治体,NGO,市民の協力のもとに模索することの大切さは,福岡市も肯定されるものと思料いたします。
 以上の立場から,以下の点を要望します。
 福岡市として,どう対応されるのか,文書にてご回答いただくようお願いいたします。

1 今回のレビュー結果に関する,別紙の疑問点・問題点にお答えください。
2 環境省見解書の指摘をどう活かすのか,そのための検討を環境省,福岡市,NGO,市民の協力で開始してください。
3 環境庁見解書が,人工島内に設置される予定の野鳥公園の整備にあたって、博多湾全体の生態系に十分配慮することを求めていることを踏まえ,野鳥公園については,湿地再生・復元の観点に立って面積・設計の両面から検討して下さい。検討に際しては,環境省,NGO,市民の協力のもとに行ってください。
4 クロツラヘラサギやツクシガモなど、絶滅危惧種の飛来を市民に広くアピールし、保全に努めて下さい。

以上



(別紙1)

「人工島」環境アセス関するに福岡市レビューに対する見解
・・・水質と底質・・・

安東 毅
I 水質

 水質に関わるレビューは、国際的にも野鳥の飛来生息地として重要視されている和白干潟の周辺海域、つまり造成中の「人工島」背後永域の水質変化を軽視している嫌いがある。特に、同水域における全チッソや全リンの濃度測定値が年度内を通し異常に高く、この水系の富栄養化がより深刻になる恐れがあるのは看過し難い。

1 COD

 この項目では,湾東部海域の環境基準点のうち,埋立工事により消失したE5を除くE2とE6でのCODについては,年間平均値と年75%値の両者をもちいたかなり厳密なレビューがなされている。
 しかし,前述の和白干潟の周辺海域については各年度の全層平均値だけによるレビューだけで,「環境基準値の平均値の達成と維持に支障を及ぼすおそれはないと予測・評価した」としている。しかしこれらの海域の水質を各年度の75%値や環境基準を超過した測症値(月)数などを検討してみると、下記のように和白干潟沖の水域で平成8〜10年度の3ケ年度では年に4ケ月以上が環境基準値を超えるCOD値の水質であった。問題にされるべきは、単に10ケ月足らず事前調査の結果との比較ではなくその低い環境基準達成率であって、このレビユーの結論には疑問をもたざるをえない。

表1. 和白・雁ノ巣部海域における各年度のCOD75%測定値(省略)

2.全チッソと全リンの濃度

 CODと同様にM4?7とH1の5地点における、平成9、10年度の全チッソと全リンの濃度測定値を、湾東部水域に対し平成8年度に設定の全チッソ[0,6mg/L以下]と全リン[0.05mg/L以下]の環境規制値と比較検討した。その結果、全チッソ濃度については、平成9年度のM4[超過4ケ月]と10年度のM7[超過3ケ月]以外は、すべてが年度内で7、8ケ月以上がその規制値を超過している。
 また,全リン濃度については、和白干潟周辺の5測定点での測定値で全リンの規制濃度値を超えるものが,両年度とも7,8ヶ月以上という水質状況であった。
 以上の水質状況は,和白干潟の周辺海域での富栄養化が今後より一層進む恐れがあるとを示している。

II 底質

 底質についても、和白干潟(Tl)と御島水域(T2)、および雁ノ巣水道部のT3,T4に着目し、それと関連ある海岸部のH3?H13まで砂泥質の諸データも含めて、レビュー結果を検討した。 なお、このレビュー結果では、底質のCODや硫化物含量等の測定値がやや高かったケースについては、そのほとんどを「人工島造成工事着工」後の周辺海岸での護岸工事に起因するものとしている。
しかし,それらの護岸工事も,造成される人工島の利用環境をよくするための工事である。このように本来は付帯する関連工事を切り離して、人工島の造成工事に起因する環境へのマイナス影響を覆い隠そうすとするのは,あまりにも姑息なやり方である。

1,底質のCOD(CODsed)と強熱減量

 和白干潟ただ一つの調査点である、その北東奥のT1の底質は全体に占める砂質分が極めて多く、平成10年度まではそのCODsedすべてが10mg/g以下,強熱減量も5%以下と、その底質砂泥などの有機物含量の多少を示す二つ指標でみる限り、かなり良好な状態と言える。とは言え、平成7年度頃から僅かではあるが漸増傾向にあり、平成11年度春にはCODsed測定値が10mg/gを超えている。
 また,海岸部のH5,6(和白干潟の奈多から北奥)の中・低潮帯ではCODsed測定値の増加傾向が認められる。
 他方,CODsedの測定値が20mg/g以上、強熱減量が10%以上と共に高い値を示しているのが、「人工島」と雁ノ巣地区に挟まれた水道部のT3、T4である。なお、これらの底質全体に占める、シルト分の比率もきわめて高い。人工島の造成に伴い水道部域では干潮時における潮流速が増すはずなのに、なぜか底質の有機物含量が高い。
 御島水域のT2の底質状態は、やはりシルト分が全体に占める割合は高いが、その有機物含量の程度は、T1和白干潟とT3やT4の水道部底質との中間ぐらいである。なお、その海岸部、H13のCODsedも平成7、8年度頃には10mg/gを超えるまでに高かった。
 その他、香住ヶ丘海岸のH11では中・低潮帯で、そのCODsea、強熱減量が共に平成8年頃からかなり増加し続けているのが、注目される。

2,硫化物量

 底質の嫌気性状態の程度を示す硫化物濃度の値は、やはりそのCODsedや強熱減量の測定値とおおよその相関性を示した。
 まず雁ノ巣水道部のT3、T4の硫化物濃度は平成7年度頃から0,5mg/gを超えて1・0mg/g前後の測定値を示しており、特にT3地点は平成8、9年度の2ケ年にその1.0mg/gを超えている。 また御島水域では、底質改善のために覆土工事をしたと福岡市は言っているが、そのT2点では平成8?10年度にかけて硫化物濃度が0.6mmg/gているのが注目される。
 他方、和白干潟のT1点の硫化物濃度は、「人工島」の造成着工から平成11年度春まで、すべて0.5mg/gと低い測定値である。ただ、CODsedと同様に、T1点の、硫化物濃度も平成7年頃から漸増傾向を示しており、今後この地点でも嫌気状態が次第に進むことが懸念される。



(別紙2)

人工島・環境影響評価レビュー報告書の問題点
・・・鳥類について・・・

●P297<第3章>下2行
 〜以上のように、アイランドシティ地区でシロチドリ、ハマシギが増加しているのは、安全性、潮汐の影響を受けないなどの面で周辺の干潟域と比較して良好な環境にあることから、選択的な利用をしていると考えられる。〜とあり、アイランドシティ内の疑似湿地が和白干潟よりも良好な状態であると評価している。

●P371、379他
 〜干潟域は、事業による直接改変はないので、干潟域における採餌場面積に変化はない〜、などと記されているが、単純に地形変化がないから環境に影響がないと結論づけるのは、短絡的であり、生態系を構成する多くの要因を無視して結論づけている。現にP630では、〜埋立地の存在ないし工事が主な原因と考えられる硫化物の増加等がかんがえられ、・・・・底質変化が生じる可能性がある〜。などとしている。あるいはP550/ベントスについて、〜工事着工前と比較すると、和白海域における底生生物の生息場機能は変化すると考えられる。この変化に伴い、和白海域の底生生物の種の構成が変化することが考えられる〜とある。これらは干潟の餌生物に変化があることを記しており、鳥類の飛来種の変化につながるのは歴然としている。

●和白干潟、及び周辺域に依存度が高い、シギ・チドリ類について竣工後は明らかに減少するとしている<P600>。着工前と比較してすでに60%以上減少しており、さらに減少するということになれば70〜80%のシギ・チドリ類が干潟域周辺からいなくなるということになる。

●絶滅危惧1A類のクロツラヘラサギ、あるいは絶滅危惧1B類のツクシガモは人工島内を主要生息域としており、人工島竣工によって大幅に減少すると予測している。<P612〜613>
 クロツラヘラサギについては、今津干潟に加えて、人工島が主要生息域となっており、博多湾の西部と東部で守ることが求められる。絶滅危惧種の保全において複数の生息域を確保することは原則であり、マカオや台湾での開発、あるいは熊本県氷川河口の生息域が新幹線ルートにかかる等、世界中で生息域が危機的状況にあることを考えれば、博多湾人工島での保全が一層求められる。
 ツクシガモについては、今冬期においては人工島内で約600羽〜800羽が越冬しており、日本でも最大級の越冬地になっている。諫早湾干潟からの移動も考えられる。
 レビューでの目標として、これらの鳥類については、貴重性ランクAであり[環境要素への影響を努めて保全する(厳正保護)]となっているが、報告書にその保全策や方向性は示されていない。福岡市環境基本条例にある「人と自然との豊かなふれあいを保ち、生き物との共生を確保すること」という理念に立返り、これらの絶滅危惧種の保全策を早急に検討、実施することが求められる。

●P629
 野鳥公園、エコパークゾーンについては、福岡市の従来の見解から、具体的に踏み込んだ保全策や、方向性は示されていない。

●P629
 底質改善対策として、生物による浄化を活用した手法とは、例えばどのようなものか?

●P600
 シギ・チドリ類について 〜個体数は減少しているが、工事や埋立地の存在以外の要因と考えられる〜 とあるが、以外の要因とは何なのか説明する責任がある。まさに製造者責任である。もし特定できないとすれば、人工島工事の影響ではないという断定はあまりにも無責任といわざるを得ない。

以 上



福港環対第94号
平成13年8月1日
博多湾の豊かな自然を未来に伝える市民の会
代表 安東  毅 様
福岡市長 山崎 広太郎
(港湾局環境対策部環境対策課)
要望書について(回答)

平成13年5月31日付けで提出されました要望書につきまして,別紙のとおり回答します。



(別紙)

アイランドシティ整備事業環境影響評価レビューは,地元住民や学識経験者等で構成する「アイランドシティ環境影響評価レビュー検討委員会」の助言を頂きながら各分野の専門的見地から十分検討を行い,とりまとめたものです。

平成13年5月18日付で環境省総合環境政策局長から市長宛に出された見解につきましては,「本レビューは平成6年の環境庁意見の主旨に則り,6年間にわたる事後調査を行うとともに,専門家の意見を聴取しつつ検討を加え,その結果を公表するなど,適性に実施されている。」との評価をいただいております。

環境省見解の留意事項も踏まえ,今後とも専門家等の指導・助言のもと水質や鳥類などの環境監視等を適切に実施するとともに,下水の高度処理の早期導入等について関係機関に協力を要請してまいります。

また,野鳥公園の整備につきましては,博多湾全体の生態系に十分配慮したものとなるよう,専門家等から幅広い意見を聞きながら検討を行い,適切に対応してまいります。



戻る 2001.8.26作成 2001.8.26最終更新 和白干潟を守る会