和白干潟を守る会では、2001年8月20日、8月25日、9月9日の3回にわたって、福岡市が2001年4月に発表した「アイランドシティ整備事業環境影響評価レビュー報告書」を検討し、疑問および意見を出し合った。以下は、それらの会合およびその他の機会に寄せられた疑問および意見をまとめたものである。疑問および意見が報告書のどの箇所に対するものかを明示するために、該当箇所をまず引用し、その後に疑問等を付した。なお、「4-序-6」などは、報告書のページ番号を表す。
「『底質』については、底生生物及び砂浜・干潟生物(海生動物の一部)の生息状況に大きな変化を及ぼさないこと、『生態系』については、海生動物及び陸生動物の生息状況に大きな変化を及ぼさないことが、『自然環境の保全上支障を生じないこと』であると判断される」 (4-序-6)とあるが、「大きな変化」とはどの程度の変化か? 環境保全目標の達成にとってどの程度の変化までなら許容できるのか? その判断の根拠は何か?
環境の保全とは、現在の環境をそのまま保つこと、環境悪化を生じさせないことではないのか?
特に、博多湾の干潟はほとんど埋め立てにより消滅しており、和白干潟が博多湾に残された数少ない貴重な自然であることを考えるならば、少しくらい悪化してもよいという考えは認められず、できるだけ現状を維持し、さらには改善するよう努力すべきなのではないか。
貴重性ランクBの環境保全目標は、「環境要素への影響を相当程度保全する(適正保全)」(4-序-8)となっているが、これも日本語がおかしくないか? また、「相当程度」とはどの程度か?
貴重性ランクCの環境保全目標は、「環境要素への影響を努めて最小化する(維持努力)」(4-序-8)となっているが、「努めて最小化する」とはどういうことか?
それぞれのランクで、どの程度までの変化なら許容されるのか?
「ない」……………影響が考えられないもの「ほとんどない」「小さい」「比較的小さい」の説明の後にある( )内の数字は、レビュー検討委員会の田村耕作委員(日本野鳥の会福岡支部事務局長)が委員会の中で確認したものとして日本野鳥の会福岡支部報2001年8月号10頁に公表しているが、これら目安となる数値(パーセント)は正しいか? 「変化、影響が明らかに大き」いとは、どの程度か? 「保全に支障を生じる」と「生じるものではない」とを区別する判断基準は何か?「ほとんどない」…影響が考えられるものの、その程度は季節変動など自然の変動の範囲より小さいと考えられるもの(5〜10%程度)
「小さい」…………影響が考えられ、その程度は季節変動など自然の変動の範囲と同程度ないしやや大きいと考えられるもの(20%程度)
「比較的小さい」…影響が考えられ、その程度は自然変動の範囲より大きいと考えられるが、予測対象の保全に支障を生じるものではないもの(30%+程度)
「大きい」…………変化、影響が明らかに大きく、予測対象の保全に支障を生じると考えられるもの
「ほとんどない」「小さい」「比較的小さい」といった表現は「季節変動など自然の変動の範囲」が基準になっているが、影響評価をする際、自然変動の範囲をどのように決めたのか? 影響評価をする際、自然変動の範囲を明示すべきではないか?(そうでないと、各表現が妥当かどうか判断できない。)
埋立地周辺の波浪については、2-1-9頁の表2-1-5(波高階級別波浪発生状況)に昭和51〜60年と平成元〜10年の推算結果が示されているが、このデータから海域の静穏化が進んでいると言えるのか? 和白海域の底質悪化の原因として静穏化を挙げているが、人工島建設前後で比較できるようなより詳細なデータが必要ではないか?
波浪については第2章(地域の概況)で扱われているだけで、第3章(事後調査結果)や第4章(予測・評価)で扱われていないのはなぜか?
3-序-1頁の悪臭に関する事後調査項目選定理由「工事に伴う浚渫土砂の投入による影響が考えられるので対象とする」から分かるように、臭気に関する調査は、工事から直接発生する臭気に限定されている。しかし、和白干潟周辺ではアオサの悪臭がかなりひどいことがある。アオサの悪臭も調査対象にすべきではないか? アオサの悪臭についてはどのように評価しているのか?
埋立工事区域周辺の臭気調査は9月1日〜11月24日に行なわれているが、一年を通して調査すべきではないか?
有機物の沈降は、和白海域の「静穏化」というより、海水の滞留、汚れた水の交換が悪くなっていることによるのではないか?
「和白海域では平成9年度以降、冬季にCODsedが高くなる傾向がみられているが、この要因は不明」(4-2-34)とあり、粘土・シルト分、硫化物、強熱減量についても同様の記述がある(4-2-33、4-2-35、4-2-36)。また、和白干潟(H-6)の高潮帯でCODsedと硫化物の増加が見られ、和白海域の「静穏化以外の要因も考えられる」とある(4-2-38、4-2-39)。これらは、秋から冬にかけて和白干潟に堆積したアナアオサが腐敗したことも関係しているのではないか?
福岡市はそのアナアオサを回収・処分しているが、これまでの回収の時期・回数・回収量・回収費用・処分方法について教えてほしい。埋立中の人工島内に捨てていると聞いているが、人工島埋め立てが完了したらどこに捨てるつもりか?
アナアオサと埋立地周辺の環境との関係についてどのように考えているか?
また、東部海域全体でのデータしか考察されていないが、和白干潟の部分だけをとってみたらどのような変化がみられるのか? 和白干潟に多数みられるコメツキガニが主な種として出ていないのはなぜか?
和白干潟のベントスに関して、「今後の流況及び波浪にはほとんど変化はないこと、水質(COD)の変化は小さく、水中の溶存酸素濃度の変化も小さいと予測されることから、 幼生(プランクトン)の生息環境の変化はほとんどないと予測される」(4-5-11)とあるが、今後の環境監視のところ(6-1-5)では「砂浜・干潟生物のうちプランクトン態の幼生期を持つものでは、埋立地の存在に伴い生息状況に変化が生じる可能性が否定できない」と書かれている。ならば、予測のところでもその変化の可能性に触れるべきではないか?
水質・底質・底生生物のところでは事業による影響が確認されているのに、シギ・チドリ類の個体数減少がその影響と関係ないとどうして言えるのか?
埋立周辺地区の生息場機能について検討する場合、既存干潟域に加えて、香椎パークポート(湿地の消滅)や人工島(湿地の出現)などを含めて検討すべきであると思われるが、それらを考慮に入れた場合、埋立地周辺全体でのシギ・チドリ類の個体数減少はどのように説明できるか?
「埋立地周辺全体では、工事着工前と比較して平成5年当時のシギ・チドリ類の主な採餌場、休息場、営巣場であった香椎パークポート(I期)や、それ以前の主な休息場であった箱崎ふ頭の水面貯木場が埋立事業の完了により生息場としての機能を失っている…。これらの場所を利用していたチドリ類(主にシロチドリ)、小型シギ類(主にハマシギ)は、現在は工事中のアイランドシティ地区内を利用しているため埋立地周辺全体の生息場機能に変化は見られないが、竣功によるアイランドシティ地区内の生息場機能の消失に伴い、埋立地周辺全体の生息場機能は工事着工前よりも低下すると予測される」(4-5-23)とある。すると、現在でも、工事着工前より個体数が減っているのに、今後さらに減ることが予想される。それにも関わらず、「環境保全目標を満足すると考えられる」(4-6-9)というのはどういうことか?
「埋立地周辺における海ガモ類の生息場機能は、工事の進捗に伴う浅海域の消滅に伴って低下しているため、個体数が減少するとともに、和白海域から海の中道海域へ分布が移動し、生息域が拡大していると考えられる」(3-6-103)とあるが、生息域が「拡大」したのではなく、主要な生息域を奪われたために単に分散しただけではないか?
レビュー報告書の中でも水質・底質・鳥類などにおいて現在よりも環境がさらに悪化することが予測されていた。報告書の最後に「今後検討を進める環境の保全・創造」が加えられ、底質改善などの対策を検討しなければならないというのは、このままでは環境保全が図られそうもないからではないのか?
和白干潟の水質・底質を改善する上で、毎年大量発生しているアナアオサ対策が重要だと思われるが、どのような対策をするつもりか?
和白下水処理場の処理水を博多湾外へ放流すると、海水の富栄養化が軽減されると思われるが、そのような対策の検討はなされているのか?
「今後、野鳥公園の具体的な整備内容については、学識経験者等の指導を受けながら検討していく」(6-1-3)とあるが、「学識経験者等」には、地元住民や自然保護団体等のNGOも入れるつもりか?
「エコパークゾーンについては、人の利用と鳥類の生息環境の保全との共存が図られるよう、利用時間、利用方法、利用範囲等について適正な誘導を図る方策を検討する」(6-1-3)とあるが、具体的にはどのような内容か?
人工島周辺のプレジャーボート規制はするつもりか?